最後までやって消えよう
「ひぃぎぃやぁあぁあああ」
おしりが痛い。
おなかが痛い。
下痢が1日30回。
夜、眠れない。
もうろうとする意識のなかで痛みに耐える生活が、10年続いた。
体がつらいのは、べつにいい。耐えていればいいだけなので。問題はお金だ。高額な、保険のきかない薬代。貯金はもうない。
そんなときだ。
わたしは収入のほとんどを失った。
メルマガ創刊当初から私のスポンサーになってくれていた、甲田光雄先生の青汁を生産する会社が事業を閉鎖した。先生が亡くなってから顧客離れが止まらなかったところへ熊本の契約農家さんが震災で野菜をつくれなくなったのが決定打となった。
会社はなくなり、わたしの収入もなくなった。
これでは来月から漢方薬が飲めない。いや治療どころではない。生活できない。
「お金をなんとかしなければ……」
アルバイトに行きたいのだが立っていることもできない。目のまえのパソコン1台でなんとかするしかない。
お金のことだけ考える日々が始まった。取り憑かれたようだった。「たったこれだけの作業で月収30万円!」よくそんなネット広告が目にとまるようになった。カードローンとかそんなキーワード検索ばかりしていたので、こんなターゲット広告が表示されていたのだ。
そして愚かなことに私はそんな情報商材を買い漁るようになった。どれも稼げなかった。次こそは本物だろう、次こそは本物だろう、とニセモノの情報を買い続け、貯金がないどころかマイナスになった。
次こそは。
ここにおいて私は、生涯消えることのない、今後だれにどう詫びても足りない、大失敗をした。
「ついに本物をみつけた!」
馬鹿である。だが、そのさなかにあるときはおのれの馬鹿に気づけないらしい。
あろうことかメルマガ読者さんに、こんないいものがあった! と熱烈に紹介してしまったのだ。
いままでと同じニセモノの商品だった。
それから1年間は、針のむしろだった。
「松井さんを見損ないました。」
お叱りのメールは途切れることはなかった。
茫然とした。なんということだ……。
わたしはこれまで、甲田先生をはじめ、人に恵まれてきた。すばらしい人に、わりとすんなり出会えた。無条件で信じられる人にばかり出会ってきた。人に会ったらまず全面的に信じるクセがついていた。
この世はそんな人ばかりでないことを知らなかった。「あなたを救いたいんです!」と言って近づいてくる、恐ろしい人間がいることを知らなかった。情けない。
悪を許さないこのメルマガで、悪の片棒をかつぐなんて……。
もう私は情報発信する資格がなくなった。
メルマガは廃刊すべきか。
健康もない。お金もない。15年間メルマガを書いて読者さんから得た信頼だけが財産だったが、それも失った。
「ひぃぎぃやぁあぁあああ」
おしりが痛い。おなかが痛い。下痢が1日30回。夜、眠れない。お金がない。月末の支払いをどうするか考えるとますます眠れない。
そして何より大切な読者さんが離れていく。お叱りのメールが毎日届く。申し訳なくて眠れない。気がつくと空が白んでいる。
本を読むことがかすかに生きる支えだったが、もう本を買うお金がない。しかたないから本棚の本を読もうとしたが、それももうだめだ。本1冊を手に持っているだけの体力がない。1行、2行よむと、重くて、ドサッと本を置いてしまう。その読んだ1、2行も、意味がよくわからない。
もうろうとする意識のなかで痛みに耐え続けながら、お金の心配をし、罪にさいなまれた。
何もかも、失った。
すべては、自らがまいたタネ。自業自得の道理にまちがいはない。
ただ生きていた。ただ痛みに耐えていた。ただうめいていた。ただ体のなかを通過するだけの食事をとりトイレに行ってそれを出す生活をしていた。
お金ができたら治療を再開と思ったが、もうそんな日が来るとは思えない。もう食費もなくなる。
餓死する姿を想像していた。
「これがぼくの一生だったのかな。」
もっとやりたいことがあった。でも、しかたない。
本が読めず、おしりの激痛で座っていることもできないから、横になってテレビでもつけておくしかなかった。
一人の受刑者が更生しようとしているドキュメンタリーが放送されていた。画面にうつるその人に、なんとか更生してほしいと私は思った。
その同じころ、政治家が問題を起こし、責任をとって辞任するという会見をみた。ほんとうに責任をとりたいなら、身を捨てて仕事して、迷惑をかけたぶんくらいはお返しをして、それから辞めたらいいんじゃないか。それまでは石を投げられても恥をさらすべきなのでは。
わたしは消えるべきか。
努力すべきではないのか。もう幸せにならなくていいから、せめてもう一度やり直すべきなのでは。
「悪いのは松井さんではないので、気にされませんように」という寛大なことばも何人もの方からいただいた。
やろうとしていたことは最後までやって消えよう。
わたしは終わった。
あとは死ぬまでに少しでも、わたしを信じてくれた方に、恩を返そう。
もういい。お金がなくてもいい。薬が飲めなくてもいい。幸せにならなくていい。治らなくていい。
まもなく、わたしは治り始めた。
つづく
◆編集後記
ちょうどこの当時メルマガを読んでいたにもかかわらず今なお松井を信じてくださっているみなさまに、わたしは、一生をかけてご恩返しをしようと思っています。
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