治療はレベル上げではない
ドラゴンクエストに登場する敵キャラクターに「はぐれメタル」というのがいる。
こいつを倒すと主人公は一気にレベルが上がる。つまり成長する。ほんとうはコツコツ、旅をしながら道中のザコ敵を狩ってゆっくりとレベルを上げていくのだが、ごくまれに遭遇する「はぐれメタル」を倒すと、ふつうなら1日かかるレベル上げが数秒で済む。ボーナス的なキャラとして設定されているのだ。ところが、こいつだけに狙いを定めて狩りをおこなうプレイヤーが続出し、「はぐれ狩り」という言葉までできた。かくいう私も「はぐれ狩り」にいそしんだ一人だ。そこだ! いけ! キター 会心の一撃! てぃりりりーてぃってぃってぃー(レベルが上がった音)。
と、こんなふうにクローン病も「はぐれ狩り」で治せるとおもっていた。
甲田光雄先生の教えに出会ったときは、よーしこれで1年で治してやるぜ!
松本仁幸先生の理論を知ったときには、よーしこれなら半年で治してみせるぜ!
しかし会心の一撃は出なかった。
前述の「はぐれメタル」は、まず、遭遇するのが難しい。出現するエリアを見定め、しばらくうろうろしてようやく出会える。やっとのおもいで出会っても、彼はめちゃくちゃ素早く、一瞬で逃げられてしまう。がっくり。運良くこちらが先手をとっても、むちゃくちゃ硬く、「ミス! ダメージを与えられない」と表示され、次の瞬間、逃げられている。がっくり。さらに運良く彼が立ち向かってきたとき、1ポイント、1ポイント、ダメージを入れていって、これは倒せるかも! とおもうと逃げられる。がっくり。
クローン病を治すためのレベル上げも、がっくりしっぱなしだった。
甲田療法、松本理論ともに、まず出会うことが難しい。この2人の天才に出会えたことは、幸運としかいいようがない。「ちから」「すばやさ」「たいりょく」軒並み低いわたしが「うんのよさ」だけは高かったのである。
しかし、取り組めど取り組めど、レベルが上がらない。
おかしいな。いや、でも経験値はたまっている、はず。
ドラゴンクエストでは「経験値」というのがあって、この数値が敵を倒すたび少しずつ増えていく。経験値はいくら増えたところで強くならないのだが、あるところまで増えると「レベル」が上がって、そのときに強くなれるのだ。経験値はいつでも数字で確認することができる。
しかしクローン病を治すレベル上げでは、それができない。
レベルが上がらなくても、経験値がたまっているのならよいのだが、たまっているのやらどうやら、さっぱり分からない。
そしてわたしは一撃で治すのをあきらめた。
そしてわたしは、レベルや経験値を気にすることもやめた。
こりゃ、どうも、のんびりいくしかないらしい。
まず、「はぐれメタル」を探すのをやめよう。一撃を狙うのをやめるのだ。
ふつうに、旅をしよう。ふつうの旅のとちゅうで、ふつうに出会った、ふつうの敵を、ふつうに倒してコツコツ経験値をためよう。
ていうか経験値を上げることを忘れよう。
クローン病を治すことも、忘れよう。
旅を、たのしむのだ。
ただし、治る方向で旅をする、のである。
治った。
結果、治るのに要した時間は18年だった。
旅のさなか、「敵を倒さなくてもいいんじゃないか」と気がつき始めていた。
化学物質は敵だ。甘いものは敵だ。ワクチンは敵だ。クスリは敵だ。
そうかなあ。
関わらなければいいだけなんじゃないか。
ドラゴンクエストの主人公も、マンガのルフィも悟空も炭治郎(たんじろう)も、敵と戦って強くなる。わかりやすいけれど、それはゲームやマンガの話だ。
戦わなくていいんじゃないか。
かわせば。
べつに目くじら立てて、やっつけてやらなくてよい。
それよりも、正しい栄養を体に入れよう。正しい栄養を心に入れよう。
のんびりいこう。
甲田先生は、腸の難病であれば玄米、豆腐、青汁、塩以外に口にしてはならないとおっしゃったが、松井二郎にはムリなので、緩和しよう。
まずそもそも体に合っていなかったことがわかったコメは小麦にとりかえ、保存状態がちょっとでも悪いとおなかをこわす豆腐を、豆乳と高野豆腐にきりかえ、用意するのも飲むのもたいへんな青汁は、カプセルぽい、ですむグリーンポットにすりかえ、調味料は、塩だけでなくしょうゆもオッケー、オリーブオイルもあり。他にも黒ごま、昆布の粉、アーモンド、りんごを解禁。お楽しみの、品質の良いお菓子も少々。
「もしかしてここまで厳しくなくても治るんじゃないか」と思ったのである。
案の定、治った。
もちろん厳しいやり方よりは時間がかかった。
でも松井はこうするしかなかった。
甲田光雄先生と、その教えどおりに難病を治した人は、わたしとはレベルの違う聖者だったのだと思う。
わたしのような低レベルは、これくらいがよい。じっさい治ったんだからね。
で、いまがいちばん、甲田式の食事がちゃんとできている。ちゃんとでもないか。いちばん、まともにできている。
教えがあっても、実践できない教えでは、高嶺の花である。食べたい、飲みたい、ラクしたい、煩悩しかないわたしが救われる教えも、あってよい気がする。
ほどほどがいいんじゃないか。何でも。
「自己啓発書を読んでバカになった人を多く見てきた」と、ある出版業界の人が言っていた。そうだろうなあ。わたしもさんざん読んだが、なんかこれ、危ないんじゃないか、と感じるようになった。もちろん、うまく使いこなせる人間にはすばらしい結果をだす助けになるが、未熟な者が、用法・用量を誤ると体を壊す。読むこと自体は、良くも悪くもない。自分が飲み込めるレベルを超えるのがだめ。
健康もそうだった。
自分ができる範囲で、むりのないレベルで、実践する。ちょっと背伸び、くらいがちょうどいい。むりなくできる範囲で、少食、粗食にし、あとはグリーンポットを飲んで健康のことは忘れる。これでわたしの健康法は完成したと感じる。
で、いつのまにか治ってた。てぃりりりーてぃってぃってぃー(クローン病が治った音)。
◆編集後記
こまかいことだが、「経験値を上げる」という日本語はない。「経験を積む」である。経験値、とふつうに使われるようになったのはドラゴンクエストによるものだ。すげえ。