あとがき ~ 薬に「お」を付けるのをやめれば治る



 痛い。かゆい。熱が出る。なぜ病気って苦しいの?
 治すために免疫が努力しているからだ。

 なにごとも良い結果を得るときには努力がいる。
 勉強は苦しい。もちろん好きな勉強なら楽しいと感じる人もいようが、わたしもそのクチだが、あの受験勉強というやつは大嫌いだった。負けん気だけで大学を受けた。最後まで身が入らなかったので志望校を何度も変更したが、大学進学はしたいので勉強した。苦しみに耐えれば良い結果が待っているからである。
 いま若者の「ホワイト企業離れ」が進んでいるらしい。ブラック企業が嫌われるのは当然だが、あまりにユルくても「これで自分を磨けるのか」と不安になるようだ。
 努力しない人生に良い結果はないから。
 結果を得るときには相応の苦しみを通らないといけないから。
 苦しみとは良くなるまでの過程である。

 なのに、「痛いということは、きっと悪いことにちがいない」。
 なぜ病気だけ例外なの? おかしいだろ。

 よく母から、「なんでじろくん(二郎くん)にこんな病気が来ちゃったのかねえ」と言われた。母は、どこからか病気が飛んできて、よその子に行かずにわが子に来たと考えている。
 そうではない。来たのではない。
 すべての病気には原因がある。免疫をいじめた結果、難病になった。
 いじめかたにはいろいろある。
 そのひとつが薬だ。

 痛い。かゆい。苦しい。「苦しみは悪いことだ」と思っているから、薬で封じこめる。
 災害がおきたから悪魔を封じようとしている未開人と変わらない。
 薬を使いなさい。薬を使わないと死にますよ。薬、薬、薬ィーと言う不勉強な医者にはまったく閉口した。
 因果の道理がわかってないんじゃないの。
 すべては因果関係にあるのだ。人は、良くなるときには必ず苦しみを伴うのが道理だ。
 なぜ病気だけ例外なの? おかしいだろ。

 白血球は成長しようとしているのだ。成長しないと治せないから、つらい自分磨きをしているのだ。磨いているから痛い、苦しい。その状態を病気というのだ。
 お薬のんでゆるっとホワイト企業では成長はないから、あえてブラック企業、とはいかなくてもホワイトよりはブラック寄りになってスキルアップをはかっているのだ。結果、白血球は成長を果たす。
 結果、クローン病は治った。
 痛い。かゆい。それは白血球が勉強のためにみずからしていることである。勉強している子供をやめさせる親がいるか。

 病院では帰りぎわに薬を受け取るさい「お薬袋」と印刷された袋に入れてくれる。
 お薬袋?
 へんなことばだ。
 小物袋をお小物袋とはいわない。スマホ入れをおスマホ入れとはいわない。
 お薬袋? 「お」ってなに。
 そういえば医者も「お医者」だ。
 「お」が付くことばには、他に「おみくじ」「おみこし」などがある。なんかようわからんけどありがたいものらしいよってときに、日本人は「お」を付けたがる。コメにまで「お」を付ける。コメには神様が宿っていると信じられてきたなごりであり、アメリカ人は決して「おライス」とは言わない。
 ちなみに「おみくじ」「おみこし」の「み」は「御」である。「お(御)」だけでは飽き足らず「み(御)」までつけて「御御くじ(おみくじ)」「御御こし(おみこし)」である。ようわからんけどこれ持っときゃいいらしいよ。これ担(かつ)いどきゃいいみたいよ。しらんけど。
 「お薬」も、なんかようわからんけどこれ飲んどきゃいいんだってよ。これ塗っときゃ悪いことないってよ。
 未開人相手の商売はラクである。

 ムヒという「お薬」を実家では常備していた。それも徳用の巨大なチューブである。
 実家はド田舎で、子供のころ夏は毎日のように虫に刺されていた記憶がある。どうも腕がかゆいと思ったら、いつのまにやられたのか、びっしり毛虫に食われたつぶつぶができており、かゆいかゆいと言っていると、おばあちゃんが、こんなときのための徳用の巨大チューブから腕にニューッとムヒを盛りつけ、手首から肩のつけねまで塗り広げ、腕は真っ白になり、「よーく、すりこんどかねえと」と透明になるまで皮膚に浸透させてくれた。
「スーッとするよ!」
「よかったなあ」
 よくない。あれはステロイド剤である。アトピー性皮膚炎の患者に処方されるものと同じ「お薬」である。
 ほかにも、ちょっとカゼをひくと「お薬」。ちょっとおなかを下すと「お薬」だった。
 そりゃ難病になるわ。

 かゆいなら掻いてりゃいいのだ。掻いて毒を放出させるために免疫はかゆみを起こしてくれているのだ。おなかが痛いのは一刻も早く異物を出そうとして腸が蠕動(ぜんどう)運動を強めてくれているのだ。そのままトイレに駆け込めばいいのだ。18年、腹痛が続いているなら、18年、トイレと友達でいればいいだけのこと。
 なのに「痛いことはきっと悪いことにちがいない」「かゆいことはきっと悪いことにちがいない」と、魔除け(まよけ)よろしく薬、薬、薬ィィィーである。
 現代人は石器時代と考え方が変わっていないらしい。

 難病になってから難病が治るまで、わたしはこれらの迷信に一切かかわらなかったことを明記しておく。

 痛かったらよろこびなさい。かゆかったらガッツポーズをとりなさい。それは夜明け前の産みの苦しみである。



― クローン病中ひざくりげFINAL おわり ―




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